- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
- 睡眠時無呼吸症候群の症状・セルフチェック
- 睡眠時無呼吸症候群の原因
- 睡眠時無呼吸症候群による合併症
- 睡眠時無呼吸症候群の検査
- 睡眠時無呼吸症候群の治し方
- 睡眠時無呼吸症候群の予防
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
とは
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に呼吸が何度も止まったり浅くなったりする病気です。多くはいびきを伴い、無呼吸や低呼吸が1時間あたり5回以上あると診断されます。こうした状態が続くと、深い眠りが妨げられ、日中の強い眠気や集中力の低下などが現れることがあります。
睡眠時無呼吸症候群の
症状・セルフチェック
睡眠時無呼吸症候群では、「起きているとき」と「眠っているとき」に、以下のような症状が現れます。
起きている時
- 強い眠気に襲われる
- つい居眠りをしてしまう
- 十分に眠ったはずなのに熟睡感がない
- 起床時に頭痛がある
- 朝から体がだるく、倦怠感が抜けない
- 集中力が続かない
- 記憶力が落ちてきたと感じる
- 性欲が低下してきた
など
寝ている時
- 呼吸が止まっていると言われる
- いびきが大きいと指摘される
- 息苦しさで目が覚めることがある
- 就寝中に何度もトイレで目が覚める
- 夜中に何度も目が覚めるようになった
- 寝汗をかきやすくなった
など
睡眠時無呼吸症候群の原因
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、原因により3つに分類されます。気道の閉塞による「閉塞性(OSA)」、脳からの指令異常による「中枢性(CSA)」、その両方が関わる「混合型」です。
閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)
睡眠時無呼吸症候群のうち、約9割を占めるのが閉塞性(OSA)です。このタイプでは、上気道が物理的に狭まることで呼吸が止まります。気道の狭窄は、首やのど周囲に脂肪がつくほか、扁桃腺・舌根・口蓋垂(のどちんこ)・軟口蓋などの組織の肥大によって発生します。仰向けで寝ると、これらの組織が重力で気道を圧迫しやすくなるため、症状が出やすくなります。日本人には下顎が小さい、または後退している人が多く、それが気道の狭さに拍車をかけるケースもあります。いびきが横向きで軽減する場合は、仰向け時に気道が狭くなっているサインかもしれません。
中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)
中枢性(CSA)は、気道の閉塞が原因ではなく、呼吸の指令そのものが脳からうまく送られなくなることで呼吸が止まるタイプです。OSAでは、低酸素状態になると脳が呼吸を再開させようとしますが、CSAではその反応が起こらず、体が呼吸を再開する動きが見られません。
このタイプは特に心不全との関連が深いとされており、慢性心不全による循環の異常が、呼吸を調整する神経の働きに影響を与えると考えられています。その結果、無呼吸が心不全をさらに悪化させるリスクもあると指摘されています。
睡眠時無呼吸症候群
による合併症
突然死
睡眠時無呼吸症候群は、重症化すると突然死のリスクが高まると報告されています。ある調査では、SASの患者様294名を約5年間追跡した結果、17名(5.8%)が死亡し、その多くは心筋梗塞や脳梗塞による突然死でした。さらに、亡くなった方の多くは起床後数時間以内に死亡していたことも明らかになりました。
高血圧
睡眠時無呼吸症候群(SAS)と高血圧が同時に見られるケースは多く、両者の関連性はよく知られています。
ある調査では、SAS患者様の約68%に高血圧が合併していたと報告されています。さらに、アメリカの高血圧合同委員会によると、重度のSAS(AHI≧20)を持つ人では、軽度のSAS(AHI<15)の人に比べて、高血圧の合併率が約1.4倍高いというデータもあります。また、SASによって睡眠中に繰り返される低酸素状態が、動脈硬化のリスクを高める可能性も指摘されています。
虚血性心疾患
睡眠時無呼吸症候群(SAS)がある方は、そうでない方と比べて虚血性心疾患を発症するリスクが1.2〜6.9倍高いと報告されています。特に、狭心症患者様の約40%がSASを合併しており、またSASのある方の35〜40%に虚血性心疾患が見られるとも言われています。こうした関連の仕組みは完全には明らかになっていませんが、睡眠中の頻繁な覚醒や低酸素状態が交感神経系の活動を高めることが影響している可能性が考えられています。
また、SASの治療に使われるCPAP(持続陽圧呼吸療法)が、虚血性心疾患の症状改善に効果をもたらすという報告もあります。
不整脈
睡眠時無呼吸症候群(SAS)のある方は、無呼吸中に脈が遅くなる「徐脈」と、無呼吸後に呼吸が激しくなる際の「頻脈」といった心拍の変動を繰り返すことが多いです。
海外で実施された400例のSAS患者様を対象とした調査では、11%に洞停止(心拍が一時的に止まる状態)、3%に心室頻拍(命に関わる重度の不整脈)が確認されたという報告もあります。
糖尿病
睡眠時無呼吸症候群(SAS)では、糖尿病を合併するケースが比較的多く、約10%に糖尿病、約15%に糖代謝異常(糖尿病予備群)が見られると報告されています。症状が重いほど合併率は高まる傾向にあります。SASの患者様には肥満の方が多く、それがインスリン抵抗性を招き、糖尿病の発症リスクを高める要因とされています。
脳血管障害
脳血管障害や一過性脳虚血発作のある患者様では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を合併している割合が高いと報告されています。ある研究では、1時間あたりの低呼吸・無呼吸回数(AHI)が10以上の割合は、脳血管障害の患者様で62.5%、健常者で12.5%となっており、有意な差が見られました。ただし、SASと脳血管障害の間に直接的な因果関係があるかどうかは、まだ明らかではありません。
多血症
多血症は赤血球数が異常に増加し、血液が濃くなって血流が悪くなる疾患です。睡眠時無呼吸症候群(SAS)と多血症には深い関連があるとされ、SASが多血症を引き起こす主な要因は2つあります。
1つは、無呼吸によってANP(利尿ホルモン)が増え、夜間の尿量が増加し血液が濃縮されることです。もう1つは、繰り返される低酸素状態でエリスロポエチンが増え、赤血球が過剰に産生されることです。
原因不明の多血症の背後にSASが潜んでいるケースもあり、CPAP(持続陽圧呼吸療法)で改善が期待できる場合もあります。
睡眠時無呼吸症候群の検査
簡易検査
睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われる場合、まずは自宅で行える簡易検査から始めるのが一般的です。簡易終夜ポリソムノグラフィー(簡易PSG)では、専用キットを装着して就寝し、睡眠中の鼻呼吸・胸の動き・体位・酸素飽和度・いびき音などを記録します。
得られたデータをもとに重症度を評価し、それに応じた治療法をご提案します。
精密検査
簡易検査で陽性と出た場合、より詳しく調べるために精密検査を行います。
終夜ポリソムノグラフィー検査では、脳波・心電図・筋電図なども含めて測定を行い、睡眠中の覚醒状態や心機能、中枢神経の異常の有無を詳しく評価します。特に中等度のSASについては、この検査によって診断が確定され、治療の必要性を判断するための重要な情報が得られます。なお、精密検査が必要な場合は専門の医療機関をご紹介します。
睡眠時無呼吸症候群の治し方
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療には複数の選択肢がありますが、特に高い効果が認められているのがCPAP(シーパップ)療法です。また、肥満が関係している場合には、体重を減らすことによって症状の改善が期待できるケースもあります。
CPAP療法
CPAP (持続陽圧呼吸療法)は、鼻にマスクを装着して空気を送り込み、睡眠中の気道閉塞を防ぐ治療法です。マスクや固定バンドに慣れるまでは違和感がありますが、睡眠時無呼吸症候群に最も効果が高いと言われています。
継続することで熟睡しやすくなり、日中の眠気改善や死亡リスクの低下にも繋がると報告されています。
当院では、重症の方に限らず、軽症や中等症でも日中の強い眠気がある方にはCPAP療法をお勧めしています。治療機器は自宅で使用でき、月1回の通院で効果を確認しながら継続的にサポートします。
マウスピース
睡眠中の気道閉塞を防ぐため、専用マウスピースを装着して治療します。装置は歯科口腔外科で、歯並びや口の形に合わせて作製されます。比較的手軽に始められ、効果が早く現れることも多い方法ですが、装着時に顎関節へ負担がかかることがあります。
手術療法
のどの粘膜を一部切除し、気道を広げることで無呼吸を改善する治療法です。一定の効果が期待できますが、身体への負担が大きいため、すぐに選択される治療ではありません。特に扁桃腺が肥大している場合には、扁桃摘出術によって症状が大きく改善することがあります。
手術が必要と判断された際には、提携先の高度医療機関をご案内します。
睡眠時無呼吸症候群の予防
減量
肥満が進行すると、いびきや睡眠時無呼吸が現れやすくなる傾向があります。そのため、体重を減らすことは、これらの症状を軽減させる有効な方法です。なお、効果が現れるまでに時間がかかることが多く、即効性は期待できません。
寝る前の飲酒をやめる
就寝前の飲酒は、のどの粘膜を腫れさせ、気道を狭めていびきが出やすくなります。晩酌後すぐに横になる習慣がある方や、毎晩飲酒してから寝る方は、飲酒を控えるだけでも症状の改善が見られることがあります。
横向きで寝る
気道の閉塞を和らげるために、最も手軽にできる対策が「横向きで寝る」ことです。ただし、閉塞が重度の場合には効果が限定的なこともあり、また、寝ている間に自然と姿勢が変わってしまうこともあります。この方法は簡単ではありますが、その実効性には個人差があるのが実情です。
枕の高さを調整する
枕の高さや柔らかさが合っていないと、睡眠中に首が不自然に曲がり、気道が圧迫される原因になることがあります。
枕選びで大切なのは、自分の体型や寝姿勢に合った高さを見つけることです。立っているときの姿勢がそのまま横になった状態でも保たれるような枕が理想とされています。睡眠時無呼吸症候群の方には横向きで寝ることが推奨されているため、横向きでも苦しさを感じず、頭から首までをしっかり支えてくれる枕を選ぶことが大切です。