胃潰瘍とは
胃潰瘍は、胃壁が深く傷つき、ダメージが筋層まで達した状態を指します。胃壁は複数の層で構成されており、表面の粘膜層(約2~3mm)が損傷する程度のものは「胃びらん」と呼ばれます。一方で、粘膜筋板が破れ、さらに深い粘膜下層(2~3mm以上)まで損傷が及んだものが胃潰瘍とされます。
胃潰瘍の種類
急性と慢性
急性の胃潰瘍は、複数のびらんや潰瘍が発生するのが特徴です。一方、慢性の場合は単発で現れることが多く、再発を繰り返すケースも見られます。
治療を行えば多くは早期に改善しますが、なかには長期間悩まされる方もいます。特に、50代前後の方に好発します。
良性と悪性
胃潰瘍には「良性」と「悪性」があり、それぞれ治療法が異なります。
良性の胃潰瘍は、一般的な治療によって完治が可能です。一方、悪性の胃潰瘍は胃がんであり、がん治療が必要となります。
胃カメラ検査によって良悪性を判断できます。
胃潰瘍の原因
以下は胃潰瘍の主な原因です。
ストレス
ストレスは胃潰瘍の主な原因の1つです。過度なストレスが続くと自律神経が失調し、胃腸の働きが低下します。自律神経は心身の状態を整えるだけでなく、消化機能にも関与しているため、自律神経が失調すると胃酸が過剰に分泌され、胃の粘膜を傷つけることがあります。
そのため、胃潰瘍を予防するには、日頃からストレスを溜め込まないことが大切です。ストレスは胃潰瘍だけでなく、様々な疾患の引き金となることも多いため、自分に合ったリラックス方法を見つけ、適切にケアすることが重要です。
ピロリ菌感染
ピロリ菌は、らせん状の細菌で、胃粘膜に長期間生息する特徴があります。この菌は胃の内部にある尿素を分解し、アンモニアを生成して胃酸を中和することで、強酸性の環境でも棲みつけます。主な感染経路は食べ物を介した経口感染で、一度感染すると除菌しない限り胃に炎症を引き起こし続けます。
ピロリ菌による慢性的な炎症は、やがて胃の粘膜を萎縮させ、胃潰瘍の発症に繋がります。また、胃がんを招くことも判明しています。胃の健康を守るためにも、気になる症状があれば検査を受け、ピロリ菌の有無を確認することが大切です。
暴飲暴食
暴飲暴食も、胃潰瘍を引き起こす原因の1つです。大量の食事を摂ることで胃酸の分泌が過剰になり、胃の粘膜に負担をかけます。さらに、消化に時間がかかることで胃が長時間働き続けることになり、ダメージが蓄積されやすくなります。
この状態が続くと胃の機能が低下し、胃酸による影響を受けやすくなるため、潰瘍のリスクが高まります。特に、日常的に暴飲暴食を繰り返すと胃の健康が損なわれ、胃潰瘍だけでなく生活習慣病のリスクも増加します。楽しい食事の場ではつい食べ過ぎてしまうこともありますが、普段の食生活では適量を意識し、胃に優しい食習慣を心がけましょう。
刺激が強い飲食
辛い食べ物やコーヒー、アルコールなどの刺激物は、胃の粘膜を刺激し、胃酸の分泌を促すため、胃潰瘍の原因となることがあります。特に、習慣的に摂取していると胃の炎症が慢性化し、潰瘍のリスクが高まります。
辛い料理やコーヒーが好きな方にとっては、日常的に楽しむものかもしれませんが、胃にとっては大きな負担になります。胃の健康を守るためには、刺激の強い飲食を控えめにし、バランスの取れた食生活を意識することが大切です。
薬の影響
特定のお薬の継続使用は胃潰瘍の原因となることがあります。例えば、脳梗塞や心筋梗塞、狭心症の予防に用いられる抗血液凝固薬は長期服用により出血性潰瘍のリスクを高めます。また、頭痛や関節痛などの痛みを抑える解熱鎮痛剤も、胃の粘膜を荒らして潰瘍を引き起こす可能性があります。頻繁に使用する場合は根本的な原因を特定し、医師と相談しながら適切な対処を行うことが大切です。鎮痛剤は一時的に痛みを抑えるだけで、根本的な改善にはなりません。
胃潰瘍の症状
胃潰瘍では、その原因や程度に応じて症状に違いがあります。以下が主な症状です。
- 胸焼け
- 胃もたれ
- げっぷ
- 吐き気・嘔吐
- 食欲不振
- 口臭
- 空腹時の心窩部痛
- 背部痛
- 吐血
- 下血
など
胃潰瘍の検査
胃カメラ検査
胃カメラ検査は、口や鼻からチューブ状の内視鏡スコープを挿入し、胃の内部を直接観察する検査です。食道や十二指腸の状態も同時に確認でき、怪しい病変を発見した場合には組織を採取して病理検査に提出することで、確定診断を下せます。一般的には苦痛を伴う検査と思われやすいですが、当院では鎮静剤を使用してウトウトした状態で検査を受けられるため、負担を軽減できます。
ピロリ菌検査
ピロリ菌の感染有無は、次のような検査で確認できます。
当院では、胃カメラ検査に加え、血液検査や尿素呼気検査などによりピロリ菌の有無を確認することもできます。胃の症状でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
血液検査、尿検査
ピロリ菌に感染した場合、体内では抗体が生成されます。採取した血液や尿から、ピロリ菌の抗体を調べることが可能です。
便検査
便中にピロリ菌抗原が含まれているか確認できます。
尿素呼気検査
尿素呼気検査は、診断薬を服用して頂き、その前後の吐息を集めて行う検査です。ピロリ菌に感染している場合、服用後の二酸化炭素排出量の増加が確認されます。
胃潰瘍の治療
胃潰瘍の治療では、ピロリ菌の除菌治療と内視鏡手術を行います。
ピロリ菌除菌
胃潰瘍の原因がピロリ菌の場合、お薬を用いた除菌治療が有効です。まず、胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカーと併用しながら、1週間にわたり朝夕2回の服薬を行います。この治療で約9割のケースで除菌が成功しますが、除菌が不十分な場合は別のお薬を用いて再度治療を行います。
内視鏡手術
出血を伴う胃潰瘍には、内視鏡を用いた止血処置が必要です。代表的な方法として「クリッピング術」があり、ステンレス製のクリップで出血箇所をしっかりと挟み、止血を行います。放置すると重度の貧血を引き起こしたり、命に関わるリスクがあるため、出血が確認された場合は速やかに内視鏡による治療を行います。
胃潰瘍の予防
胃潰瘍の予防には、以下を意識しましょう。
- 食事の栄養バランスを意識する
- 暴飲暴食を控え、腹八分目を心がける
- アルコールなどの刺激物を減らす
- 禁煙に取り組む
胃潰瘍は放置して
治りますか?
胃潰瘍は、軽症であれば2ヶ月ほどで自然に回復することもあります。しかし、痛みが続く場合や出血がある場合は、自然治癒しにくいため適切な治療が必要です。また、一時的に症状が落ち着いても再発する可能性があるため、定期的な検査を受けて再発予防に努めましょう。
胃潰瘍はどうやって気づく?
胃潰瘍の主な自覚症状は腹痛で、特にみぞおち周辺に痛みを感じることが多いです。また、潰瘍から出血すると、吐血することもあります。少量の出血でも、血液が胃酸と混ざることで黒色便が出ることがあるため、こうした症状が見られた場合は早めに当院までご相談ください。