お尻のかゆみについて
お尻のかゆみは、特に夏になると多くの患者様が抱える問題です。汗による刺激によって、あせも(汗疹)やかぶれが生じると、かゆみを感じることがあります。「そのうち治るだろう」と、放置してしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にはあせもやかぶれ以外の原因でかゆみが発生していることもあります。疾患が原因の場合は、放置していても症状は改善しません。
かゆみが続く際は肛門外科を受診して適切な検査を受け、原因に応じた治療を受けることが重要です。
お尻がかゆい原因
肛門そう痒症によるかゆみ
肛門そう痒症は、掻いたり擦ったり、洗ったりする行為が引き起こす皮膚トラブルです。この症状は、単なる皮膚病ではなく、患者様自身の行動によって生じる皮疹です。治療の際には、この点が非常に重要です。
- 掻くことで皮膚に細かな傷ができ、これがかゆみの原因となります。
- 擦るだけでも、皮膚に微細な傷がつき、かゆみの原因となります。
- 洗うことで皮脂が落ち、皮脂の減少が皮膚のかゆみの原因となります。
皮脂が減少し、皮膚のバリア機能が弱くなると、かゆみを感じる神経が過敏に反応することが分かっています。このため、肛門そう痒症の患者様は「かゆみを感じて掻くことで、かえってかゆみが強くなる」という悪循環に陥りやすい特徴があります。
真菌症(白癬症・カンジダ症)によるかゆみ
真菌とは、カンジダや水虫などの一群に属する微生物です。肛門の皮膚に真菌に感染した場合、かゆみが引き起こされることがあります。学術的な文献では、「肛門のかゆみは真菌症による」と記載されていることがありますが、肛門のかゆみが真菌症によって起こるケースは稀であり、ほとんどは肛門そう痒症によるものです。当院では、真菌症特有の見た目に基づいて診断を行い、真菌症が疑われる場合に限り、抗真菌薬を処方して治療を進めます。
痔によるかゆみ
いぼ痔(痔核・脱肛)、切れ痔(裂肛)、痔ろう(あな痔)は、「三大痔疾患」として知られており、これらが原因でかゆみを感じることがあります。
いぼ痔(痔核・脱肛)
内痔核が大きくなり、肛門の外に飛び出す状態を「脱肛」と言います。場合によっては、脱肛とともに大量の粘液が分泌され、この粘液が皮膚を刺激することで、かゆみを引き起こすことがあります。
切れ痔(裂肛)
裂肛の傷は通常痛みを伴いますが、傷口から分泌される浸出液や、治癒途中の傷、または軽度の傷自体が、かゆみを引き起こすことがあります。
痔ろう(痔瘻)
痔ろうは、肛門周辺に感染が広がり化膿することによって発症する疾患です。主な症状は膿の排出ですが、膿が多い場合にはべたつき感を伴うことがあります。一方で、膿が少量の場合には、その刺激が原因でかゆみを引き起こすこともあります。
肛門周囲、肛門内部の汚れによるかゆみ
肛門やその周囲に汚れが残っていると、かぶれを引き起こし、かゆみの原因となることがあります。排便後は、トイレットペーパーで便が残らないようにしっかり拭き取ることが大切です。
ただし、汚れを気にして皮膚を強く擦ったり、洗いすぎたりすることは避けるべきです。トイレットペーパーで強く擦ったり、温水洗浄便座で長時間洗浄したりすると、必要な皮脂が取り除かれ、乾燥を招き、かゆみを引き起こす原因となります。
お尻の洗浄は、10~15秒程度を目安に行い、かゆみがひどいときは石鹸を使わず、優しく洗うようにしましょう。
汗による刺激・あせも
汗をかくと汗腺が一時的に詰まり、汗がうまく排出されずにあせもができ、かゆみを引き起こすことがあります。また、締め付けの強い下着やおむつによって蒸れると、かゆみが悪化することがあります。
がんによるかゆみ
肛門周囲のただれやかゆみがどれだけ治療しても改善しない場合、肛門そう痒症ではなく、皮膚がんが原因の可能性があるため、皮膚科で検査を受けることが推奨されます。皮膚がんが原因だった場合、提携先の高度医療機関をご案内します。
お尻のかゆみの予防
排便後は、お尻を拭いて清潔に
排便後はお尻を優しく拭き、清潔な状態を維持することが重要です。強い力で擦ると肛門周辺や皮膚に負担がかかり、傷つける恐れがありますので、丁寧に優しく拭き取ることを心がけましょう。また、排便時には肛門内に便が残らないよう、しっかりと排出することが大切です。
肌に合わないものは避ける
肌に合わない石鹸や薬品、下着は使用を避けるようにしましょう。特に、下着を洗う際に使う洗剤が肌のかぶれを引き起こすこともありますので、洗剤にも注意が必要です。また、生理用品やおむつを長時間にわたって使用すると、蒸れやかぶれを引き起こすことがあるため、頻繁に取り替えることを心がけましょう。
入浴
お尻や肛門周りの血流が悪くなると、痔を引き起こす可能性があります。38~40℃のお湯にじっくりと浸かることで、血行が促進され、痔の予防に効果的です。また、立ちっぱなしで長時間作業をする場合は、時折膝を曲げ伸ばししたり、体を軽く伸ばすなどして血行を良くしましょう。