立ちくらみとめまいの違い
めまいは、ぐるぐる回る感覚(回転性)やふわふわと浮いているような感覚(浮遊性)など、平衡感覚の異常が現れる状態です。一方、立ちくらみは、立ち上がった瞬間などに脳への血流が一時的に減少することで起こるもので、通常は短時間で治まります。
めまいの中には、脳梗塞などの病気が原因で長く続くものもあります。また、人によっては立ちくらみを「めまい」と感じることもあり、個人差がある点にも留意しましょう。
立ちくらみの原因
立ちくらみの原因となる失神は、以下の4つに大別されます。
- 神経調節性失神
- 起立性低血圧
- 心原性失神
- その他の要因による失神
よく見られるのが、神経調節性失神や起立性低血圧によるものです。一方で注意が必要なのは心原性失神で、これは心臓の病気や不整脈などが原因となります。
一般的に貧血や脳貧血と表現される立ちくらみは、これらの失神に該当するケースが多いです。
神経調節性失神(反射性失神)
神経調節性失神は、自律神経の働きが乱れることによって脳への血流が一時的に低下し、意識を失うタイプの失神です。自律神経には、緊張状態で働く交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経があり、普段はこの2つがバランスを取りながら血圧や心拍数を調整しています。
しかし、何らかの刺激やストレスによってこのバランスが崩れると、血圧が急に下がって脳への血流が不足し、立ちくらみや失神が引き起こされます。
血管迷走神経性失神
血管迷走神経性失神は、自律神経や血圧の調整に関わる圧受容器の働きがうまくいかなくなることで、一時的に脳への血流が低下し、意識を失ってしまうタイプの失神です。以下のような特徴があります。
- 日中や午前中に起こることが多い
- 長時間の立ちっぱなし、不眠、疲労、精神的ストレスなどが引き金になりやすい
- 人ごみや換気の悪い空間などの環境でも誘発される
- 発作前に頭の重さや頭痛、腹痛、吐き気、視界が急に暗くなるなどの前兆が見られる
- 採血時に針を刺した瞬間、気が遠くなるような感覚がある
状況失神
特定の動作や日常生活の中の決まった場面で起こる失神です。何気ない行動が引き金となり、一時的に脳への血流が低下して意識を失います。
排尿失神
排尿の際に起こる一時的な意識消失を指し、特に立った姿勢で排尿する中高年男性に好発します。ただし、20代などの若年層でも発症することがあります。
誘因としては、飲酒や利尿剤・降圧薬の服用などが挙げられます。多くは夜間や明け方に発生します。
排便失神
排便の際に起こる失神で、50〜70代の高齢女性に好発します。強い便意や腹痛を伴うことも多いです。
嚥下性失神(比較的珍しい)
飲み物を飲み込む動作がきっかけで起こる失神で、40〜70代の中高年層に好発します。食道に何らかの疾患がある場合に起こりやすく、また心筋梗塞を経験した方に発症しやすい傾向があります。
咳嗽失神
咳き込んだ際に一時的に意識を失うタイプの失神で、主に中年の男性に多く見られます。特に体格ががっしりしている方や肥満傾向のある方に起こりやすく、喫煙・飲酒習慣がある方にもよく見られるのが特徴です。
頸動脈洞症候群
頸動脈洞症候群は、中高年の方に多く見られる失神で、原因がはっきりしない失神の背景にあることも多い重要な疾患です。
以下のような行動が引き金になることがあります。
- ネクタイや襟の締め付けなど、首を圧迫する動作
- 着替えや車の運転時に首を大きく動かす
- ひげそりなどで首を刺激する
男性に多く見られ、高血圧や心疾患を合併しているケースもあります。
起立性低血圧
起立性低血圧は、寝ている状態から立ち上がった際に、血圧が大きく低下することで立ちくらみや失神を引き起こすことがある疾患です。
立ち上がると、約500〜800mlの血液が重力によって下半身に移動し、一時的に心臓への血液量が減少します。通常は、体内の「圧受容器-反射系」という仕組みが血圧を調整し、脳への血流を維持していますが、この機能がうまく働かないと血圧が大きく下がり、脳の血流も不足してしまいます。
次のような特徴があります。
- 朝の起床時、食後、運動後に症状が悪化しやすい(特に高齢者は食後に失神が起こりやすい)。
- 起立後3〜5分以内に、拡張期血圧が10mmHg以上または収縮期血圧が20mmHg以上低下する。もしくは、起立後3〜5分以内に収縮期血圧が90mmHg未満になる。
- 体位性頻脈症候群(POTS):立ち上がった際に心拍数が120回/分以上、または安静時から30回/分以上増える。
全身性疾患や脳疾患など
起立時のめまいは、主に起立性低血圧や不整脈などの循環器系の問題、あるいは自律神経の不調が原因となることが多いです。
しかし、その背後には、次のような全身性疾患や脳の病気が潜んでいることもあり、注意が必要です。
脱水
体内の水分が不足すると、血液の循環がスムーズに行われなくなり、立ち上がったときにふらついたり、めまいを感じたりすることがあります。
妊娠
妊娠中、特につわりの時期には、吐き気や食欲不振などの影響で水分や栄養が不足しがちになります。その結果、脱水や血圧の低下を招き、立ちくらみが起こりやすくなります。
熱中症
熱中症のはじまりには、めまいや立ちくらみ、足がつる、腹部に痙攣などが発生します。
貧血
赤血球が不足すると、全身に酸素を運ぶ力が弱まります。特に脳への酸素供給が不十分になることで、めまいや立ちくらみが生じることがあります。貧血の原因は多岐にわたります。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの分泌が不足すると、体の代謝が低下し、疲れやすさや立ちくらみといった症状が現れることがあります。
ミネラルとビタミン不足
特にビタミンB12が不足すると、赤血球の生成がうまくいかず、貧血や神経の働きの異常を招き、立ちくらみを引き起こします。また、ナトリウム(塩分)は血液循環を保つために欠かせない成分です。
耳鼻科疾患
耳の奥には、体のバランスを保つ働きを担う三半規管があります。この三半規管が何らかの理由で機能障害を起こすと、めまいや立ちくらみが現れることがあります。代表的な疾患には、メニエール病やBPPV(良性発作性頭位めまい症)などがあります。
不整脈
心房細動や頻脈などの不整脈により、脳への血流が低下し、立ちくらみを起こすことがあります。
低血糖
血糖値が下がると、脳へのエネルギー供給が不十分となり、立ちくらみを引き起こすことがあります。特にインスリン治療を行っている方は、低血糖を起こしやすいため注意が必要です。
糖尿病性神経障害
糖尿病により自律神経が障害された場合、立ちくらみや胃もたれ、下痢、便秘といった様々な症状が現れることがあります。
更年期障害
更年期に入るとエストロゲンの分泌が急激に減少します。エストロゲンは血圧の調整にも関与しているため、その変化により立ちくらみやイライラ、ほてり、睡眠障害などが起こりやすくなります。
一過性脳虚血発作(脳梗塞の初期)
言葉が出にくい、片側の手足の痺れや顔の歪みが一時的に現れた場合は注意が必要です。
薬剤性失神
利尿薬やα遮断薬、神経調節薬、抗うつ薬などの服用により、失神が発生することもあります。
パーキンソン病
安静時でも手が震えたり、動作がぎこちなくなるといった症状が現れます。
精神疾患
うつ病をはじめとする精神疾患では、自律神経の乱れによって、頭痛や腹痛、下痢、吐き気、動悸、めまいなどが現れることがあります。
めまいの原因
私たちが姿勢を保ち、空間を認識するためには、視覚と内耳の情報が正常に働くことが欠かせません。めまいの原因として最も多いのは、内耳の機能異常によるものですが、それ以外にもストレス、ウイルス感染、あるいは脳の血流不足や脳幹の障害、脳卒中などが関係していることもあります。
内科や耳鼻科で検査を受けても原因が分からない場合や、症状が改善しない場合は、脳の異常も疑われるため、早めの受診をお勧めします。
脳出血
血腫が大きくなると、外科的な治療が必要です。
昨今は、頭蓋骨に小さな穴を開け、内視鏡を用いて血腫を取り除く体への負担を抑えた治療が可能になっています。
脳梗塞
脳梗塞の治療では、抗凝固薬などの薬物療法が行われ、必要に応じて手術が選択されることもあります。また、動脈硬化の進行を抑え、再発を防ぐには、生活習慣の見直しも欠かせません。
くも膜下出血
くも膜下出血では、お薬やカテーテル、外科手術で治療を行います。
脳腫瘍
脳腫瘍の根本的な治療には、開頭手術による腫瘍の摘出が必要です。特に悪性腫瘍の場合は、再発リスクが高いため、手術に加えて放射線療法や抗がん剤による治療を組み合わせて行います。
一方、良性腫瘍では、周囲の正常な脳組織への影響を考慮し、経過観察とするケースもあります。
メニエール病
重症度に応じて、薬物療法や注入術、外科的治療(内リンパ嚢回切除術や内耳破壊術など)が行われます。
良性発作性頭位めまい症
症状に応じて薬物療法に加え、耳石を本来の位置に戻す特殊な体位治療が行われます。
低血圧症、起立性調節障害
原因疾患がある場合は、その治療が優先されます。一方で、睡眠不足や生活習慣の乱れが関係している場合は、生活習慣の見直しが重要です。適度な運動を取り入れ、塩分や水分を適切に補給することも、症状の改善に役立ちます。
血管迷走神経反射
発作が起きた際は、横になって安静にすることで自然に回復します。長時間の立位や強いストレス、脱水などが誘因となるため、これらを避けることが予防には有効です。
立ちくらみ・めまいの検査
めまいや立ちくらみの原因を調べるため、まずは問診を行い、症状の背景にある疾患を推測します。必要に応じて、心電図やホルター心電図、心臓超音波検査、血液検査などを行います。
立ちくらみ・めまいは
ご相談ください
立ちくらみやめまいは、多くの方が日常的に経験する症状であり、安静にしていれば自然に治まることも少なくありません。
しかし、繰り返し起こる場合や、失神・頭痛・吐き気などを伴う場合は、背景に病気が隠れている可能性もあります。
気になる症状が続くときは、浜松市の「あいざわ循環器内科・内視鏡・肛門クリニック」までご相談ください。